2012年5月7日月曜日

図録▽寿命・健康ロスの大きな病気・傷害(DALY値)


 病気やケガ、そして自殺や事故、犯罪など(以下、病気等と略す)がどれだけ社会にダメージを与えているかを測る指標としてDALY(ダリー、"disability-adjusted life year")がある。

 これは、WHOの定義によれば「死が早まることで失われた生命年数と健康でない状態で生活することにより失われている生命年数を合わせた時間換算の指標」である。具体的には病気等が寿命を早めている寿命ロス年数と病気等による健康損失を健康寿命換算した健康ロス年数の合計で算出されている(詳しくは巻末の「DALY定義」参照)。

 DALYの訳語としては直訳した「障害調整生命年」が通常用いられるが、これでは病気等で失われた年数という趣旨が伝わらないので、ここでは「寿命・健康ロス」と言い換えるものとする。そしてDALYの2つの構成要素である死亡により失われた年数(YLL)と非健康により失われた年数(YLD)をそれぞれ「寿命ロス」、「健康ロス」と呼ぶこととする。

 病気については、� ��因別死亡率などから推測される疾病構造(例えば感染症や急性疾患が減り慢性疾患が増えているなど−図録2080参照)から病気を克服するための保健医療政策が立てられてきたが、死因としてはあらわれにくいが健康上の問題としては大きいうつ病や認知症などを含めた社会的ロスをDALYとして指標化することによって、より適切な保健医療対策への資源配分(財源、研究、従事者)が期待されている。米国などでは疾患の研究に投じられる研究費額がDALYと最もよく相関しているともいわれる。

 ここではWHOの2002年値の各国別の推計値から先進国と比較しながら日本の病気等の状況を概観してみることにする。病気相互の比較、あるいは先進国との比較を容易にするため、各病気等のDALY値の総数に占めるシェア(%)を図示した。

< p> 図では、がんを各部位のがんについて掲げたが、全部位では17.8%と最も大きい。がんは死因別死亡率でも圧倒的にトップとなっているので、寿命をそれだけ縮めることによる損失が大きいためと考えれる。OECD全体においてはがん(全部位)が13.2%であるので、これと比較しても大きくなっており、がんは特に日本においては最大の課題であることがうかがえる。参考図に掲げた寿命ロスと健康ロスの割合によれば、がんの場合寿命ロスが9割弱を占める。

 図のトップは脳血管疾患である。これは、OECD全体と比較してもシェアが大きい。死因としても大きいが、脳血管疾患が車イスや寝たきり生活を余儀なくされる可能性が高い疾患であることから健康寿命の損失という側面からもDALY値が大きくなっている脳血管疾患の3分の1は� �康ロスによる。

 図の第2位はうつ病・躁うつ病、第3位はアルツハイマー病など認知症(かつて痴呆と呼ばれたが2004年から名称変更が進められた)である。これらは、死因別の疾病構造には登場しないが、健康という側面からは損失の大きな病気であり、参考図に見られるように、うつや認知症の場合、ほとんどが寿命ロスでなく健康ロスである。健康ロスは当人や周囲の者が働けないことによる経済ロスにつながる(特に勤労世代においては当人が働けないことが大きな負担となる)ことから、当人や周囲の苦痛・心労ばかりでなく経済的な負担の面からも克服が大きな課題となっている。当図録で紹介したDALY指標ではじめてその深刻さが分かるのである。

 OECD全体と比較すると、うつ病・躁うつ病は、OECDではDALY値が日本以 上に深刻であり、がん(全部位)を除くと最大となっていることから、極めて大きな克服課題となっていることがうかがわれる。一方、認知症については、OECDより日本においての深刻度の方が大きい点が特徴である。

 なお、DALY値によりうつ病・躁うつ病を豊かさとの関係で国際比較したグラフを図録2156に掲げたので参照されたい。

 虚血性心疾患(心臓病)は肥満との関係などから欧米で深刻な疾患であるが、日本でも、第4位の大きさとなっている(図録2100、図録2120参照)。

 これに続いて、自殺が登場する。日本の自殺率は先進国中最高であることから(図録2770参照)、OECD全体と比較してもDALY値のウエイトが高くなっている。OECD全体ではむしろアルコール乱用の方が深刻なのと対照的である。

 自殺に続い� �、難聴(加齢による聴覚障害)や関節症が登場し、肺がんや胃がんより大きなウエイトを占めているのは意外である。それだけ健康ロスが大きいのだと考えられる。

 この他、交通事故が肝臓がんと同じぐらいの深刻さである点、未熟児の死亡や出産後の障害など周産期に発生した病態はOECDではかなり大きいウエイトであるのに対し日本では相対的に小さい点、先進国ではHIV/エイズの寿命・健康ロスは相対的に小さい点など様々なことを図から読みとることができる。

DALY定義

障害調整生命年(ここでは「寿命・健康ロス」と言い換え)

 DALY(障害調整生命年)は、死亡が早まることによって失われたであろう寿命(生命年)(PYLL)の概念を、健康でない状態、すなわち障害によって失われた「健康」寿命換算の年数を含めることで拡張した健康ギャップ指標である。DALYは、障害をもちつつ暮らした時間と死亡が早まることで失われた時間を1つの指標に統合している。1DALYは、失われた「健康」寿命および実際の健康状態と誰でもが病気や障害がなく高齢期を過ごした場合の理想的な状態とのギャップとしてあらわされた病気の負荷の1歳分と考えることが可能である。

 病気、健康状態のDALYは、総人口について死亡が早まることによって失われた年数(YLL: Years of Life Lost)と人々の健康状態に生じた事故による障害によって失われた年数(YLD: Years of Life lost due to Disability)の合計として計算される。

 寿命ロス年数(YLL)は、基本的には、死亡数に死亡年齢における平均余命を掛け合わせた数に一致する。後述の社会係数を含まないとするとYLLの基本公式は、所与の死因、年齢、性別について以下の通りである。

YLL=N×L
ここで、N=死亡数、L=死亡年齢時の平均余命

 YLLは死亡によって失われた寿命という事故の連続性を測っているので、YLDの計算では事故の広がりを含めなければならない。特定要因、特定の時間スパンのYLDを評価するため、その間の事故数には、平均的な疾病期間とその病気の深刻さを0(完全な健康)から1(死亡)の間の値で反映させたウエイト要素が乗じられる。YLDの基本公式は以下である(ここでも社会係数を適用しないとすればであるが)。

YLD=I×D W×L
ここで、I=事故数、DW=障害ウエイト、L=治癒あるいは死亡に至る平均年数

 平等原則がDALYには明示的に導入されており、この世界疾病負担研究(Global Burden of Disease Study)は世界の総ての地域で同じ値を採用している。すなわち、失われた健康寿命の計算に当たっては、総ての人口グループについて同じ「理想的な」平均余命を使用し、年齢や性別以外の総ての非健康要因(人種、社会経済的な地位、職業など)を排除している。最も重要なことは、特定の健康状態で暮らしている総ての人に対して同じ「障害ウエイト」を使っている点である。付け加えると、若年者や高齢者のウエイトを減じる3%年齢ディスカウント(非同一年齢ウエイト)が最初の世界疾病負担研究では使われている。こうした係数は、最近の世界保健報告書やその数表で用いられた2000年の世界疾病負担研究でも継続的に使用されている。

 非同一年齢ウエイトや3%ディスカウントでは、幼児の死亡は33DALYに相当し、5〜20歳の� ��亡は36DALY前後に相当する。3,300DALYの疾病負担は、100人の幼児死亡に相当し、またそれは50歳の盲目(障害ウエイト0.6)の者5,500人の1年分の生命年に相当する。

(資料)WHO, Causes of death and burden of disease estimates by country(2002年値推計)

 以下に、図に掲げたもの以外を含む総ての疾病・傷害のDALY値を掲げる。

疾病・傷害のDALY値


それに傾くはそれでショック
 病気等の名称 DALY値
単位:1000daly 
DALYウエイト DALY構成
世銀定義高所得国 
OECD 日本 OECD 日本 寿命ロス
(YLL)
健康ロス
(YLD)
総数 152,649 13,296 100.0 100.0 44.2 55.8
T.感染性疾患・産科・栄養疾患 12,891 749 8.4 5.6 57.0 43.0
TA.感染症及び寄生虫症 4,867 263 3.2 2.0 59.9 40.1
結核 320 34 0.2 0.3 68.1 31.9
性感染症(HIVを除く) 353 23 0.2 0.2 2.4 97.6
 梅毒 17 1 0.0 0.0 27.7 72.3
 クラミジア 235 18 0.2 0.1 0.0 100.0
 淋病 97 4 0.1 0.0 0.2 99.8
HIV/エイズ 744 3 0.5 0.0 69.1 30.9
腸管感染症 808 37 0.5 0.3 29.4 70.6
幼児性感染症 423 27 0.3 0.2 21.6 78.4
 百日咳 222 26 0.1 0.2 4.2 95.8
 ポリオ 7 0 0.0 0.0 99.3 0.7
 ジフテリア 0 0 0.0 0.0 98.3 1.7
 麻疹 190 0 0.1 0.0 85.1 14.9
 破傷風 4 0 0.0 0.0 100.0 0.0
髄膜炎 392 6 0.3 0.0 58.8 41.2
B型肝炎 98 15 0.1 0.1 89.5 10.5
C型肝炎 167 39 0.1 0.3 87.9 12.1
マラリア 121 0 0.1 0.0 80.0 20.0
熱帯性疾患 337 0 0.2 0.0 39.8 60.2
 トリパノソーマ症 0 0 0.0 0.0 100.0 0.0
 シャガス病 82 0 0.1 0.0 9.7 90.3
 住血吸虫症 0 0 0.0 0.0 55.8 44.2
 リーシュマニア症 7 0 0.0 0.0 26.5 73.5
 フィラリア症 247 0 0.2 0.0 0.4 99.6
 オンコセルカ症 0 0 0.0 0.0 0.5 99.5
ハンセン病 3 0 0.0 0.0 43.3 56.7
デング熱 0 0 0.0 0.0 95.3 4.7
日本脳炎 6 0 0.
ターナー滝マサチューセッツ州
0
0.0 5.8 94.2
トラコーマ 60 0 0.0 0.0 1.5 98.5
腸ぜん<蠕>虫症 40 0 0.0 0.0 2.6 97.4
 回虫症 10 0 0.0 0.0 0.9 99.1
 鞭虫症 16 0 0.0 0.0 0.3 99.7
 鉤虫症 13 0 0.0 0.0 0.0 100.0
TB.呼吸器系疾患 2,270 317 1.5 2.4 85.7 14.3
下気道感染症 2,044 299 1.3 2.2 94.6 5.4
上気道感染症 92 8 0.1 0.1 37.5 62.5
中耳炎 134 9 0.1 0.1 1.9 98.1
TC.妊娠、分娩及び産褥 862 53 0.6 0.4 6.9 93.1
TD.周産期に発生した病態 3,342 18 2.2 0.1 70.0 30.0
低体重出産 1,041 4 0.7 0.0 73.1 26.9
出生時仮死・外傷 1,486 10 1.0 0.1 47.4 52.6
TE.栄養不足 1,551 99 1.0 0.7 9.3 90.7
栄養失調 304 13 0.2 0.1 27.1 72.9
ヨード欠乏症 206 0 0.1 0.0 7.4 92.6
ビタミンA欠乏症 0 0 0.0 0.0 58.8 41.2
貧血 997 82 0.7 0.6 4.6 95.4
U.非感染性疾患 124,655 11,206 81.7 84.3 40.1 59.9
UA.がん(悪性新生物) 20,169 2,361 13.2 17.8 88.5 11.5
口唇,口腔及び咽頭がん 505 48 0.3 0.4 92.9 7.1
食道がん 519 86 0.3 0.6 96.9 3.1
胃がん 1,234 351 0.8 2.6 95.9 4.1
大腸がん・直腸がん 2,300 329 1.5 2.5 80.8 19.2
肝臓がん 904 253 0.6 1.9 98.1 1.9
膵臓がん 887 138 0.6 1.0 97.1 2.9
肺がん 4,021 361 2.6 2.7 96.7 3.3
皮膚がん 344 8 0.2 0.1 90.0 10.0
乳がん 2,019 149 1.3 1.1 78.5 21.5
子宮頚がん 380 37 0.2 0.3 75.1 24.9
子宮がん 466 54 0.3 0.4 55.3 44.7
卵巣がん 532 49 0.
ecomonyは大恐慌でdistroyedされた理由
3
0.4 87.9 12.1
前立腺がん 774 48 0.5 0.4 71.5 28.5
膀胱がん 476 34 0.3 0.3 72.9 27.1
悪性リンパ腫・骨髄腫 1,075 90 0.7 0.7 94.3 5.7
白血病 888 75 0.6 0.6 95.4 4.6
UB.その他新生物 433 62 0.3 0.5 100.0 0.0
UC.糖尿病 3,911 300 2.6 2.3 36.3 63.7
UD.内分泌疾患 2,066 155 1.4 1.2 33.6 66.4
UE.精神神経疾患 39,678 2,986 26.0 22.5 7.7 92.3
うつ病 12,805 738 8.4 5.6 0.1 99.9
躁うつ病 1,955 191 1.3 1.4 0.2 99.8
統合失調症 2,026 180 1.3 1.4 1.3 98.7
てんかん 746 47 0.5 0.4 31.2 68.8
アルコール乱用 6,675 395 4.4 3.0 7.9 92.1
アルツハイマー病、その他認知症 4,417 662 2.9 5.0 15.9 84.1
パーキンソン病 702 96 0.5 0.7 24.9 75.1
多発性硬化症 369 22 0.2 0.2 31.0 69.0
薬物乱用 1,775 3 1.2 0.0 12.5 87.5
トラウマによる適応障害 602 65 0.4 0.5 0.0 100.0
強迫神経症 822 50 0.5 0.4 0.0 100.0
パニック障害 1,007 101 0.7 0.8 0.0 100.0
睡眠障害 890 109 0.6 0.8 0.0 100.0
片頭痛 1,723 120 1.1 0.9 0.0 100.0
UF.感覚器疾患 7,059 658 4.6 5.0 0.0 100.0
緑内障 274 11 0.2 0.1 0.0 100.0
白内障 635 10 0.4 0.1 0.0 100.0
高齢視覚障害 1,581 104 1.0 0.8 0.0 100.0
難聴(成人発病) 4,565 533 3.0 4.0 0.0 100.0
UG.循環器疾患 23,032 2,156 15.1 16.2 79.5 20.5
リウマチ性心疾患 184 13 0.1 0.1 81.7 18.3
高血圧症 925 25 0.6 0.2 85.3 14.7
虚血性心疾患 9,547 570 6.3 4.3 86.2 13.
8
脳血管疾患 7,216 1,118 4.7 8.4 68.0 32.0
心筋症などの炎症性心疾患 873 59 0.6 0.4 77.4 22.6
UH.呼吸器疾患 9,395 750 6.2 5.6 30.9 69.1
慢性閉塞性肺疾患 4,517 207 3.0 1.6 35.7 64.3
喘息 2,427 279 1.6 2.1 8.5 91.5
UI.消化器疾患 6,720 581 4.4 4.4 55.3 44.7
胃潰瘍・十二指腸潰瘍 331 31 0.2 0.2 63.0 37.0
肝硬変 2,399 160 1.6 1.2 79.7 20.3
虫垂炎 50 4 0.0 0.0 31.9 68.1
UJ.泌尿生殖器疾患 1,891 183 1.2 1.4 60.8 39.2
腎炎・腎不全 817 85 0.5 0.6 94.4 5.6
前立腺肥大 342 42 0.2 0.3 1.8 98.2
UK.皮膚病 291 14 0.2 0.1 31.1 68.9
UL.筋骨格疾患 6,318 734 4.1 5.5 5.2 94.8
関節リウマチ 1,209 120 0.8 0.9 4.8 95.2
関節症 3,304 443 2.2 3.3 0.3 99.7
UM.先天性疾患 2,524 151 1.7 1.1 52.9 47.1
UN.口腔疾患 1,166 112 0.8 0.8 0.3 99.7
虫歯 712 59 0.5 0.4 0.0 100.0
歯周病 47 5 0.0 0.0 0.2 99.8
欠け歯 397 48 0.3 0.4 0.0 100.0
V.傷害 15,102 1,341 9.9 10.1 74.0 26.0
VA.不慮の傷害 10,796 772 7.1 5.8 67.0 33.0
道路交通事故 3,952 238 2.6 1.8 80.1 19.9
毒物事故 581 15 0.4 0.1 97.6 2.4
転倒・転落 1,682 149 1.1 1.1 37.7 62.3
やけど 288 23 0.2 0.2 69.7 30.3
溺死及び溺水 416 55 0.3 0.4 97.9 2.1
その他の不慮の傷害 3,876 293 2.5 2.2 49.7 50.3
VB.故意の傷害 4,307 569 2.8 4.3 88.7 11.3
自傷及び自殺 2,818 544 1.8 4.1 94.1 5.9
加害にもとづく傷害及び死亡 1,394 25 0.9 0.2 75.
0
25.0
戦争 67 0 0.0 0.0 65.0 35.0
(資料)WHO, Causes of death and burden of disease estimates by country(2002年値推計)、WHO, Disease and injury regional estimates for 2004(DALY構成)

(2009年3月23日収録)



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